特注タイル 施工事例紹介 Case 6 八戸市美術館 2023. 04. 28
Profile: 西澤 徹夫・浅子 佳英
西澤 徹夫
1974年生まれ。2000年東京藝術大学美術研究科建築専攻修了。2000〜05年 青木淳建築計画事務所、2007年西澤徹夫建築事務所設立。2023年より京都工芸繊維大学デザイン・建築学系特任教授。「東京国立近代美術館所蔵品ギャラリーリニューアル」(東京都、2012年)、「映画をめぐる美術──マルセル・ブロータースから始める」展会場構成(東京都、2014年)、「Re: play 1972/2015―『映像表現'72』展、再演」(東京都、2015年)など展覧会会場構成、「京都市美術館再整備事業基本設計・実施設計監修」(京都府、2019年、共同設計=青木淳建築計画事務所)、「八戸市新美術館設計」(青森県、2021年、共同設計=浅子佳英、森純平)など、美術館・文化施設の設計に多く関わる。「京都市京セラ美術館」で第8回京都建築賞、2021年日本建築学会賞(作品)、2020年度JIA日本建築大賞、第30回AACA賞、第62回毎日芸術賞ほか、受賞多数。
浅子 佳英
1972年神戸市生まれ。2007年タカバンスタジオ設立、2022年には設計と編集を行うPRINT AND BUILDに改組。09年東浩紀らとともにコンテクチュアズ(現ゲンロン)設立、12年退社。著書に「TOKYO インテリアツアー」(安藤僚子との共著)。「百貨店の歴史」(菊地尊也との共著)。出版物に「デザインの現在」土田貴宏著。リサーチに「TOKYOデザインテン」「パブリックトイレのゆくえ」「百貨店展」。おもな作品に「Gray」(2015)、「八戸市新美術館」(2021:西澤徹夫、森純平との共同設計)など。
2021年11月、青森県八戸市の中心街にアートを通じた街づくりの拠点として「八戸市美術館」がオープンしました。
プロポーザルで選定された、建築家の西澤徹夫氏と浅子佳英氏がジョイントベンチャーで設計を担当。
天井高約17mの巨大パブリック空間「ジャイアントルーム」をはじめ、美術・工芸だけでなく、アートを介した地域活性化への取組等、
見どころの多い美術館です。
屋外には複数の種類の外構ベンチが配されていて、早くも市民の憩いの場となっています。
そのベンチの仕上げ材に、ダイナワンの「特注タイル」が使われています。
西澤氏と浅子氏に「八戸市美術館」について、また、「特注タイル」を使用した経緯やこだわりのポイント、使ってみての感想についても聞きました。
青森の新たなアート拠点「八戸市美術館」
久しぶりに顔を合わせたという2人ですが、2人の間に漂っていた空気はとても和やかなものでした。
浅子「西澤さんとはそもそも知り合いだったんですよ」
西澤「最初に出会ったのは、10年くらい前、だったでしょうか」
浅子「出会いのきっかけは忘れてしまいました(笑)。なにかの飲み会だったかもしれません」
今回のプロジェクトを進めていくにあたり、あえて役割分担はしなかったと言います。
浅子「役割分担をしようという話も出たのですが、せっかく一緒にやるのだから、時間がかかってもすべて一緒に決めようという話になりました。
そのぶん時間はかかりますが、実際そのほうが面白かったですね」
市の美術館という“公共の施設”を作るにあたってのスタンスも一致していたと言います。
西澤「もともと自分のスタイルを散りばめるというやり方にはこだわりがないというか、むしろ照れ臭いと思っているほうでして(笑)。
浅子さんも僕もいつも使っている形式や材料があるわけないので、価値観が大きく食い違うこともありませんでしたね」
浅子「そうですね、ただ、建築家としては珍しいタイプかもしれません(笑)」
西澤「もちろんそれぞれ好みはありますが、それがかぶっている部分も多かったし、お互いの得意な部分を出し合うこともできました。
それがオリジナリティにつながっていったようにも思います」
浅子「美の殿堂といったようないわゆる美術館的な建物にはしたくないという思いは共通していました」
ここで美術館について簡単に紹介しましょう。
約500㎡の広さを持つ「ホワイトキューブ」は、高さ5mの仮設壁を利用して、自由なレイアウトが可能です。
なかでも最大の特徴は、「ジャイアントルーム」と名付けられた巨大な多目的空間。
これは、街中に大きなリビングルームがあってもいいのではないかという発想から誕生したそうです。
エントランスホールであり、同時に館内の多様な部屋に通じる廊下としての役割も担っています。
また、この「ジャイアントルーム」には、なんと「流し」が設置されているのです!
西澤「流しは、この施設を気兼ねなく使ってほしいと少し荒っぽく使えるように作っているんですよ。美術館側からは、始めは『本当に必要なのか』と言われましたが、利用頻度はかなり高いと聞いています」
浅子「完成する前からどう使われるかを完璧に予想するのは、簡単なことではありません。完成して実際に使ってもらって初めてわかることが多くあります」
「それでも可能な限り、使われる姿を想定し、機能に特化した部屋を複数作ることにしました。たとえば、黒い壁に囲まれた『ブラックキューブ』は映像作品の展示に最適なスペースです。
ただ、暗い部屋という特性を利用して、ほかのことにも転用できます」
西澤「ある機能に特化した部屋でも、それ以外の用途に活用することはもちろん可能ですし、美術館は、むしろその用途を裏切った使い方をしようと考えてくれています」
特注したオリジナルタイルを使用
美術館の屋外スペースには、一部、芝生が敷き詰められていて、そこにあるベンチの笠木部分にダイナワンの特注タイルが使われています。
西澤「もともとは美術館の建物のファサード部分をタイル貼りにしようと考えていました」
浅子「サンプルを作ってもらったのですが予算の折り合いがつかなくなってしまい、ファサードにタイルを使うのは泣く泣くあきらめました。
その後、外構を手がけるにあたって、せっかくサンプルも作ってもらったのでどこかで使いたいと思っていたタイルを使うことにしたわけです。
温かみのある素材を使いたいという思いもあり、笠木にタイルを使うことを決めました」
ベンチの製作にあたっては、浅子氏と西澤氏が図面を書き、スタイロフォームの原寸模形を制作して、それが実現可能か否かをダイナワンに相談したと言います。
浅子「タイルは色ムラがあるのがいい。それがタイルの面白さでもあります。ほかにこういった素材はなかなかありません。
また、今回の外構ベンチは円形となっており、タイル形状も長方形ではなく、緩やかな台形でできており、一般的に焼成後切断で処理されるところや、
タイル同士の取合いとなる異形状役物等、全ての形状を手作業で作っていただいています」
西澤「実は八戸市美術館のプロジェクトで、ゼロから特注でお願いしたものは他にありません」
今回のテラコッタ陶板タイルは、岐阜県多治見市の谷口製陶所が製作を手掛けています。
社長の谷口英二朗氏によれば、最大のポイントは湿式成形ならではのハンドメイドによる成形作業の数々であったといいます。
「中庭・奥庭と呼ばれる市民の憩い場ともなるスペースに配置された、ベンチや円形の立上り、花壇の笠木には、約50種類、900ピースが存在します」(谷口氏)。さらに今回のプロジェクトにかかわったことは、「とても誇らしいことでした」と強調します。
「近年、タイル市場をにぎわす大型タイルのほとんどは、海外からの輸入品が使用されており、日本ならではの一体成型役物をみかけるケースは少なくなりました。しかしながら、今回のオーダーは、昔ながらの成型技術を駆使し50種類の形状を全て生生地切断による無垢材にて製作することでした。
後加工に頼らなかったこと、可塑性のあるタイルという素材でいろいろなチャレンジをさせていただけたことも誇りに思っています」(谷口氏)
そんな谷口氏の言葉を伝えると、浅子氏も西澤氏も「うれしいですね」と笑顔をのぞかせました。
美しく納める
円弧を描く場面でのタイル張では、長方形の材料での納めでは起点部から終着部にかけ、目地幅が広がるため、台形に加工された材料を用います。
焼成後のタイルをサンダー等の工具で切断加工し施工すれば簡単なことですが、電動工による切断面と成形品とでは材料端部のディテールに違いが出るため、
今回は専用の切断治具を用いた、生素地切断の技術が採用されました。奥庭の円形ベンチの陶板や花壇の笠木等にはすべてこの技術が用いられています。
またベンチという特性上、人の手や衣服が触れるため、安全性の観点からタイルコバや先端は丸みを持たせる等の配慮がなされ、ここでも生素地切断の技術が応用されています。
浅子「試作品を見て、これは行けると確信しました」
現在、タイルのベンチは子どもの遊び場としても利用されています。二人によれば、遊具として使われることはもともと想定にあったと言います。
西澤「アウトドアのファーニチャーであり、遊具でもある──、そういったものを作りたいと考えました。子どもたちが遊具として使うその隣で、
お母さんがお茶を飲んでいる、そんな使い方ができるものを作りたかったんです」
各部制作工程
【円形ベンチ】
【植栽】
【中庭ベンチ】
タイルという素材の可能性を引き出していきたい
最後に、お二人にタイル業界に求めるものについても伺いました。
浅子「今回のベンチのような、自由度が高いモノを作ることができる余地を、ぜひ残していただきたいです」
西澤「こだわって小さいモノを作りたいという人もいう設計者も多いと思います。小ロットでさらにカスタマイズもできる、そういったニーズに対応できる態勢を確保していただきたければうれしいです」
浅子「これだけ耐久性が高く、質感が良く、自由に作ることができる素材はタイルのほかにありません。色も豊富ですしね。タイルという素材の可能性をもっと引き出していきたいです」
製造場面において、若い技術者にとってのラーニングの場となった、今回のプロジェクト。
熟練の技術者を中心に、形状図面からのディテールを再現するためのディスカッションがなされ、無垢材への拘りに対する期待に応えるためのトライ&エラーが繰り返されました。
そんな中、古くから焼き物の世界で利用される治具(製造道具)を技術者自身の創意工夫で使い勝手よく改良し、900ピースの材料を全て1つの型からつくりきった谷口製陶所の皆様に改めて敬意と感謝をお伝えすると同時に、国産湿式タイルの魅力である本物のものづくりへの、きっかけを提供くださった西澤徹夫様、浅子佳英様に、この場を借りて御礼申し上げます。
ダイナワンでは、 独自のネットワークによる協力工場や窯元と共に、ご希望の色や質感、形状に合わせた特注タイルをご提案いたします。
特注タイルのオーダーステップについてはこちらをご参考ください。お問い合わせは弊社営業担当または下記のフォームまでお願いいたします。