特注タイル 施工事例紹介 Case 3 福田美術館 2020. 09. 10

Profile: 安田 幸一 建築家・安田アトリエ主宰・東京工業大学教授・博士(学術)

1981年    東京工業大学卒業
1983年    東京工業大学大学院修了
1983-2002年 日建設計
1989年    イェール大学大学院修了
1988-91年  バーナード・チュミ・アーキテクツ・ニューヨーク
2002年-現在 東京工業大学教授、安田アトリエ主宰

主な作品:ポーラ美術館(村野藤吾賞、日本建築学会賞、BCS賞)、KUMAKIRI(空間デザイン・コンペティション金賞)、大分マリーンパレス水族館うみたまご(日本建築学会作品選集)、東京工業大学緑が丘1号館レトロフィット(日本建築学会作品選奨)、ポーラ銀座ビル(環境・設備デザイン賞 環境デザイン部門最優秀賞、日本建築学会作品選集)、東京工業大学附属図書館(日本建築学会作品選奨、BCS賞)、ハーフバスルーム08(グッドデザイン賞)、L-table(グッドデザイン賞)

写真:稲葉なおと

Profile: 安田 幸一 建築家・安田アトリエ主宰・東京工業大学教授・博士(学術)

日本古来から貴族や文化人に愛され、数々の芸術品を生み出す原点となった京都・ 嵯峨嵐山。
伝統的な建物が立ち並ぶこの地域で新たな日本文化の発信地として建てられた福田美術館の屋根に、ダイナワンへ特別注文いただいた瓦テラコッタ(いぶし瓦風)を採用いただきました。

今回は、その瓦テラコッタ採用の経緯や製作過程を、実際に設計された安田アトリエの安田幸一さんにお話を伺った内容をもとにご紹介します。

日本古来の伝統を現代風に見直す

京都を代表する観光地である嵯峨嵐山地区は、渡月橋や天龍寺をはじめ多くの歴史的建造物や遺跡が点在するため特別修景地域に指定されています。
特に福田美術館の建つ敷地周辺は、日本瓦の屋根と土塀の景観が印象的で、京都の伝統的な風景が保存されています。
そのため、建築も高さのみならず細かい基準が設定されているのです。
例えば今回、屋根は日本古来の寺のように銀ネズ色の平瓦を使用しなければならないことになっていました。
一方、今という時代につくられる現代建築でもあることから、日本の伝統色を残しつつ新しいイメージを取り入れた、”現代に相応しい日本の情景”をコンセプトに設計されました。
屋根も本物の瓦ではなく、銀ネズ色のいぶしタイルでいぶし瓦を再現することで、伝統とモダンの融合を実現したいと思われたそうです。 

嵐山全景の様子
撮影:石黒 守

瓦テラコッタ(いぶし瓦風)の形のアイデアの原点

屋根の形で真っ先に思い浮かんだのが、奈良時代に建立された「唐招提寺の金堂」。
お寺が昔から特別な館としてシンボライズされているように、宝を守る「蔵」の役割をしている美術館にもある意味敬意を表現し、且つ現代的にアレンジした形となるような屋根にしたいと思い、
唐招提寺の丸瓦が連なって出来ている屋根を手本とし、通常は金属で作るかわら棒を銀ネズの瓦で作ろうと考えられました。
ダイナワンに相談いただいた際に、瓦より高温で焼成され、高強度となるタイル素地にいぶしをかける提案をお伝えしたところ賛同いただけたため、今回の特注オーダーをしていただくことになりました。
俯瞰すると街に融合しているが、細やかに見ると従来とは「異なる」表現になることを望んでいました。

庭から見る福田美術館
撮影:石黒 守

理想の瓦テラコッタを求めて

焼き物技術の結集

屋根材として「焼き物」が使用されること、それはごく日常のありふれた光景ですが、今回の特集となる福田美術館では、瓦、タイル、陶管、食器等で用いられる技術を結集した中空状のセラミックが使用されています。同じ焼き物の世界でも異業種の垣根を超え実現した屋根材をご紹介します。

(要求された材料性能)

いぶし窯の選定 ハットキルンの採用

今回、我々が目指したのは、屋根瓦としての真新しい銀光沢だけを纏ったいぶしではなく、嵐山の風景にすぐに溶け込むような、銀ネズから黒ネズまでのデリケートな色管理でした。
タイルと異なり、自然な色幅が求められる事の少ないいぶし(屋根材)の世界で、いぶしの強弱の作り分け等、繊細なオーダー対応が必要であり、
この要求を実現可能ないぶし工場として、過去に日本各地の寺院の屋根瓦修復でクライアントからの難しい要求をこなしてきた、
愛知県碧南市の『カネ善 石川製瓦所』が所有するハットキルンを選定しました。
1度の生産を少量に限定し、生産ロットを細かく分け、銀ネズから黒ネズ の色バラツキを毎ロットの生産色合い確認しながら、次回のいぶしの強弱を決定し、石川社長の長年の経験と勘性で、3段階程度に作りわけていただきました。

資料提供:安田アトリエ
日本に3つしかないと言われている「ハットキルン」
資料提供:安田アトリエ
今回製作した屋根の1パーツ

自然な風合い 絶妙なジャンブル作業

ジャンブル工程は、外装材を中心とするタイルの世界では、焼き物ならではの色のバラツキや偏りをなくす為の作業ですが、
瓦、煉瓦の世界では一般的な工程ではありません。
現場に材料が納入された際、施工者が何気なくパレットから材料を手に取り施工しても、色の偏りを抑制する為のタイル業界ならでの工程です。
今回、色のバラツキから光沢の幅という複雑な要素を持ついぶし製品をタイル業界ならではのジャンブル技術を活かし、
ごく自然ないぶし屋根の風景となるようにしています。

色合いの検品風景
資料提供:安田アトリエ

特殊な役物形状 屋根材ならではの役物形状への挑戦

今回の製造にあたって我々の最大の悩みとなったものは、屋根を綺麗に納める為の役物形状の製作の存在です。

屋根の納めには、またぎ(屋根丁部)、軒、袖部を納める為の、押出成形では成型が不可能な特殊な役物が必要となります。
このような役物形状を瓦の世界では、特殊なプレス成型を用い、一体成型で製作することが常套ですが、
タイル業界にはない成形技術であり、今回の製造サイズは非常に大きいこと、また乾式施工を実現する為、中空状の形状をベースとしているので、一体成型を実現することは困難でした。

そこで、今回は、昔ながらの生接着という技術を用い、特殊な役物を全て成型しています。
生接着とは、各々別のパーツを成型し、乾燥前に共土と呼ばれる粘土でつなぎ合わせ、その継ぎ目をへら等を用い手直しする技術です。

タイル業界でも、40年程以前は、テラコッタ製造等で使用されることもありましたが、接着剤の性能向上による焼成後接着の普及等により、この技術はほぼ存在しません。

また同様に我々の大きな障壁となったものは、材料の寸法精度でした。
真っすぐに伸びた竹節のような屋根のデザインの為、歪みや反りのない直線性が求められました。
その上、高い安全性を実現する為の乾式施工が採用されている為、接着剤張り施工の様な張り代という調整シロはなく、ベースとなるプレートに沿う精度が求められました。
そこで、近年、タイル業界でもセラミックルーバーと呼ばれる、細い陶管状の部材製造を得意とする陶榮株式会社(以下、陶榮㈱)(常滑市)に生地の成形・焼成作業を依頼しています。
メートルサイズの材料を真っすぐに成形する技術が如何なく発揮されています。
特に丁部に使用するまたぎ役物については、見せ場でもあり、見映えと留付を両立させる為の角度については、施工者、製造者と綿密な打合せを繰返し、納品に至りました。

カフェ棟の施工風景
資料提供:安田アトリエ
役物の施工を待つ屋根
資料提供:安田アトリエ
丁部の生接着の様子
資料提供: 陶榮㈱

生接着の実現

最大の課題である生接着についても、陶榮㈱のある常滑の街は、日本でも有数の急須の産地であり、この地域では、急須生産にあたっては今でも注ぎ口の部分を生接着で留付けており、生接着の技術が未だに根付いていました。
陶榮㈱の技術スタッフにとっても、生接着に対する不安や抵抗感なく、むしろ常滑の焼き物技術の最大の魅せ場として試行錯誤を重ねながら、意欲的に取り組んでいただきました。

このように、常滑、碧南地区という昔ながらの焼き物産地の技術を総動員することで、今回の瓦テラコッタ屋根は実現しました。

下記、長期間にわたり、本プロジェクトにご協力をいただきました製造者をご紹介いたします。

・基材の成型・生接着・焼成:陶榮㈱

陶榮㈱ 代表取締役 社長 関俊治

・いぶし加工:カネ善 石川製瓦所

カネ善 石川製瓦所 石川善彦

・混合、加工工程:新井窯業㈱

新井窯業㈱ 顧問 新井達彦

・施工・留付ディテール:㈱LIXILトータルサービス 関西支店  大阪プロジェクト営業所 課長 大坪玄以知、
            ㈱ベクタークラフト 代表取締役  磯野和弘

向かって左: 大坪玄以知、
右: 磯野和弘

一癖、二癖ある技術者集団をたばね、今回のプロジェクト実現にご協力をいただきました岡本煉瓦㈱:岡本社長にも、この場を借りて、感謝申し上げます。

岡本煉瓦㈱ 代表取締役 岡本耕也

焼き物の魅力

今回、これ以上ないところまで設計、工場、施工者が一丸となり追及してやり切ったので、どんな結果になっても受け入れるつもりだったそうです。
実際に出来上がるまでもどこか安心感があったと言っていただけました。
焼き物に対して100%全て統一された精度を求めている訳ではなく、色ムラなどある程度バラツキがあった方が味があって良いとおっしゃる安田さん。

「元々建築は焼き物から始まっており、モダンな時代の”和”を表現する手法として、焼き物は現代建築でも見直されていますし、見直されるべきです。
土から生まれている温かさ、表面の色合いだけではなく、その奥の厚みが持っている豊かさを持つ焼き物は、これからも消えることはないです。」

今回チャンスがあったのでやろうと思われたそうです。
毎回ここまでやり込むことは難しいが、これからもチャンスがあったらまたこうして冒険し挑戦していきたいとおっしゃっていただけました。

福田美術館が、嵐山の歴史の伝承と未来の風景を結び付ける存在になることを期待しています。

ダイナワンでは、お客様のご要望に応じて、焼き物、施工ノウハウに精通した専門スタッフが、営業と共に、最適な工場選定から試作まで、お手伝いさせていただく仕組みがあります。
タイルに限らず、レンガ、瓦、食器等、独自の焼き物ネットワークを駆使し、設計者だけでなく製造者の困り事を解決し、ご要望を実現してまいりますので、当社営業へ皆様のご要望をお届けください。

ダイナワン担当者より一言

色合管理等苦労することはありましたが、
先生のご満足いただける製品をご提供でき、 またこのような特殊な案件に携わることができて光栄です。
(営業担当 / 齋藤 秀樹)

福田美術館とは

2019年10月1日にオープンした、日本近代美術 1,500点のコレクションが収蔵されている美術館。

日本が誇る芸術家の作品を見学できるとともに、日本文化の発信と継承に貢献していくことが期待されている。

2F 展示室
撮影:石黒 守

【アクセス】
JR山陰本線(嵯峨野線)「嵯峨嵐山駅」下車、徒歩12分
阪急嵐山線「嵐山駅」下車、徒歩11分
嵐電(京福電鉄)「嵐山駅」下車、徒歩4分

【住所】京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16【 Tel】075-863-0606 【Fax】075-863-0607

川越しに見る福田美術館
撮影:石黒 守

ダイナワンでは、 独自のネットワークによる協力工場や窯元と共に、ご希望の色や質感、形状に合わせた特注タイルをご提案いたします。

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